一般の皆さまへ

一般の皆さまへ|一般社団法人日本専門医機構 総合診療専門医検討委員会

はじめに

「総合診療専門医」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか。
総合診療専門医は、2021年に一期生が誕生したばかりの新しい専門医です。地域の病院や診療所で患者を診ていますが、内科や外科、小児科などのおなじみの専門医に比べて数が少なく、ご存じない方も多いかもしれません。
新たに誕生した総合診療専門医についてより深く知っていただくために、総合診療専門医とはどんな医師なのか、なぜ今総合診療専門医が求められているのか、実際に総合診療専門医として活躍する医師の姿なども含めてご紹介します。

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「総合診療専門医」ってどんな医師?

総合診療専門医は特定の臓器や疾患を専門とするのではなく、幅広い視野で患者や家族を見守り、地域を支えるオールラウンドプレイヤーです。
「扱う問題の広さと多様性」が特徴です。

総合診療専門医の特徴は…

  • どんな患者のどんな症状でも診察し、必要であれば専門医を紹介する
  • 日常的に頻度が高い病気とケガに領域を問わず対応する
  • 臓器を診るのではなく患者を一人の人として診る
  • 患者個人はもちろんのこと、患者の生活を支える家族もまるごと診る
  • どんな相談にも耳を傾け、向き合う
  • 病気の治療だけでなく、予防から終末期まで継続的に診る
  • 地域全体の健康を考える
  • 看護師・薬剤師等の多職種や行政と連携し、地域の暮らしを支えるチームの核となる

患者側にとってのメリットは?

困ったときになんでも相談にのってくれる

体調を崩した時どの診療科を受診すればいいのか、迷ったことはありませんか?
頭痛やめまいがする時、不眠が続く時…そんな時にまずご相談いただきたいのが総合診療専門医です。患者の声に耳を傾け、生活習慣や職場・学校・家族関係、精神的な悩みなども視野に入れて、治療方針をたて、必要があれば診療科別の専門医を紹介します。専門的な治療を終えた後も引き続き診てくれます。

ワンストップで全身を診てくれる

高齢者などいくつもの病気を抱える患者にとって、全身を診てくれる総合診療専門医は頼りになります。身体の不調があってもどの臓器が原因か、どの科を受診すべきかの判断は患者には難しく、また、いくつもの診療科を受診すること自体が大きな負担になるからです。
足腰が弱って医療機関を受診できなくなった時も、総合診療専門医は医療や福祉の専門職と連携して、住み慣れた自宅での暮らしを支えます。患者本人だけでなく介護する家族の想いも大切にしながら、よりよい暮らし方を一緒に考えてくれる、それが総合診療専門医です。

「総合診療専門医」はこんなふうに対応する

総合診療専門医は、病気を単なる身体の問題として捉えるのではなく、心や社会生活も含めた問題として対応します。ちょっと難しいですが、これを「包括的統合アプローチ」といい、これを実践できるのが総合診療専門医の最大の特徴であり強みです。

例えば、「緊張型頭痛」と診断された患者がいたとします。緊張型頭痛は、日常のストレスや無理な姿勢の継続などによって引き起こされるよくある頭痛の一種です。しかしながら、片頭痛などの我慢できないような痛みを呈する頭痛とは異なり、にぶい痛みが特徴である緊張型頭痛のみで医療機関を受診する患者は多くありません。ここから総合診療専門医は「それでも医療機関を受診するということは、別の問題があるのではないか」と推察します。そこで、普段の生活について尋ねたところ「職場でのデスクワークが長い」「残業が続き、ストレスになっている」「帰るのが遅く、睡眠不足」であることがわかり、その結果として気分の落ち込みや意欲の減退があることから「抑うつ状態」が認められました。この患者の場合、緊張型頭痛という身体に対する治療だけではなく、抑うつ状態の悪化を防ぐ心のケアや職場環境など社会生活の改善のための支援を行うことが問題解決につながります。このように包括的に患者の問題を捉え、からだ・こころ・せいかつのそれぞれに適切なアプローチを行うことが総合診療専門医の対応です。

生物・心理・社会モデルにあてはめた患者の症状 からだ:緊張型頭痛・こころ:抑うつ状態・せいかつ:職場での残業/睡眠不足

ごく初期の症状では診断が難しい病気に対しても、総合診療専門医は適切な診療を行うことができます。例えば、胸の痛みを訴える患者は、日本では受診する医療機関を患者が自分で選べることもあり、まず「循環器内科」「呼吸器内科」といった心臓や肺の専門医を受診することが多いでしょう。循環器内科や呼吸器内科では、採血や心電図、レントゲン、心臓超音波検査、CT検査など多くの検査が実施されます。しかし、ここまで調べても病気がみつからない時はどうしたら良いでしょうか?
総合診療専門医は、このような場合、症状が出揃っていなかったり、非典型的であるケースを考慮して、確率的思考に沿って相対的に病気の可能性を考えます。この患者のケースでは、かかりつけ医を受診する胸痛患者の中で頻度が高い「帯状疱疹」を含めた胸壁由来の病気の可能性を考えたところ、実際受診2日後に皮膚症状が出現し帯状疱疹と診断されました。

このように診断の確定が困難な場合、多くの検査が行われることがあり不必要な医療コストが生じがちです。

また、診断が遅れ、治療の開始までに時間がかかることも患者の損失となります。これらの問題を解決できるのも総合診療専門医なのです。
総合診療専門医は、こういった問題を解決できるよう、包括的統合アプローチに取り組んでいます。

「総合診療専門医」はこうして能力を身に付ける

総合診療専門医の特徴は「扱う問題の広さと多様性」そして「包括的統合アプローチ」を実践できることです。
総合診療専門医になるには、その力を身に付けるための研修を指導医のもとで少なくとも3年間受け、試験に合格することが必須です。
また、総合診療専門医になった後も5年ごとに試験を受けて専門医資格を更新することになっています。
こちらが3年間の研修の内容です。

総合診療専門研修プログラム 総合診療専門研修プログラム

総合診療専門研修=真の包括的統合アプローチを身に付ける研修

包括的統合アプローチを身に付けるためには、各診療科を回って専門知識を得るための「縦串」の研修である領域別研修のほか、病気を単なる身体の問題として捉えるのではなく、心や社会生活も含めた問題と考え「横串」の視点を用いて問題解決することを学ぶ総合診療専門研修が必須となります。さらに総合診療専門研修では、診療所・小規模病院、そして大病院の総合診療部門という多様なタイプの医療機関での研修を行い、地域に求められるさまざまな場所で能力を発揮する力も獲得します。

「縦串」と「横串」の視点 「縦串」と「横串」の視点の図

必須の領域研修

各診療科を回って専門知識を得るための「縦串」の研修です。内科、小児科、救急科での研修が必修になります。内科では医療の基本である成人に対する診療を、小児科では乳幼児から思春期までの診療を経験し、さまざまな年齢層の患者に対応できる能力を身に付けます。さらに救急科で緊急性の高い病気への対応能力を養います。

その他の領域の研修

外科、整形外科、産婦人科、精神科、皮膚科、眼科、耳鼻咽喉科といった領域で、総合診療と大きく関わる領域を中心に選択で研修を行います。これらの研修を追加で行うことで、「縦串」を増やし、幅広い診療スキルを獲得します。

医療資源が乏しい地域での研修

地域医療へ貢献できる知識と経験を獲得する研修です。総合診療は医療資源が乏しい地域での研修が必修となっている唯一の専門医です。

なぜ今「総合診療専門医」が求められているのか?

日本の社会は少子高齢化が急速に進み、今後ますます医療や介護を必要とする高齢者が増える一方、支え手である若年者が少なくなっていきます。そうした社会の変化に、これまでの医療のあり方では対応しきれなくなってきています。日本の医療が直面している課題として以下の内容が挙げられます。

複数の慢性的な病気を持つ高齢者の増加

日本の医療はこれまで臓器別・疾患別の診療を中心に発展し、それぞれ高度に細分化する中で新たな治療法や薬などが開発され、国民は多大な恩恵を受けてきました。
しかし、高齢化が進むといくつもの慢性的な病気を抱える高齢者が増えてきます。これからの社会には、臓器別・疾患別ではなく、生活も含めた患者個人を包括的に診ることのできる医療も必要なのです。

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医師や診療科の地理的偏在

医師不足に悩まされている地域、特に僻地や離島では、診療科の数も限られます。日常的に頻度が高く、幅広い領域の病気とケガに対応できる医師は、地域医療の持続可能性の切り札となります。

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溢れる医療情報

インターネットなどには、健康や医療に関する情報が溢れていますが、その内容は玉石混交です。正しい情報を選び、自分の健康に役立てるためには「健康リテラシー」を高める必要がありますが、その助言者となる医師がいれば疾病予防や適正受診につながり、ひいては増大する医療費の抑制にもつながると期待されます。

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「総合診療専門医」の実像

まだ数は限られているが、確実に増えている

総合診療専門医を目指す専攻医を対象に研修が始まったのは2018年。3年の研修を経て試験に合格し専門医一期生が誕生したのが2021年です。未だ数が少ないのが現状ですが、総合診療専門医は今後確実に増えていきます。

総合診療領域 専門医採用者数・専門医取得者数(2024年4月1日現在)

さまざまな場で活躍している

専門医取得者の勤務場所(2023年4月20日現在)

専門医を取得した医師の多くが満足している

専門医取得者へのアンケート

診療所や病院でどんな仕事をしているの?

中村翔也中村翔也

患者さん個々の幸せを考えて診療に取り組む

患者さんをまるごと診て
多面的に疾患にアプローチ

中村翔也医師

松島海岸診療所(宮城県)

【略歴】

2016年 岩手医科大学 卒業
2019年 みちのく総合診療医学センターで総合診療専門研修スタート
2022年 総合診療専門医 資格取得
松島海岸診療所 勤務
医科、歯科、通所リハビリ、在宅診療などに取り組むグループ診療所
(医師3人、看護師6人など)

総合診療医の道を選んだ理由

医学部を卒業して初期研修を受けている頃まで、自分がどんな医師になりたいのか、はっきりした像は描けていませんでした。総合診療専門医に興味はありましたが、それがどういう専門医なのかよくわからず、不安もありました。それが「やってみなければわからない。やるだけやってみよう」という気持ちになったのは、いよいよ専門研修が始まるという段階になってからです。
専門研修を受けてみて、患者さんをまるごと診なければならない総合診療専門医は、複雑で困難なことや不確実なことにも向き合う必要があることを実感しました。それは難しく、ストレスも多いのですが、逃げずに取り組んでうまくいったときの嬉しさはひとしおだったことからこの道に進むことを決めました。

総合診療専門医ならではのやりがい

総合診療専門医は、あらゆる疾患のあらゆるタイプの患者さんを多面的に診ることになります。とくに診療所の総合診療専門医は、生活面からのアプローチも行います。同じ疾患でも患者さんによって抱える事情が違えば、同じようには対応できません。患者さん個々の問題点を見出し、どう解決すれば良いかを一緒に考え、そしてそれを解決できたときに総合診療専門医としてのやりがいを感じます。
医療が疾患だけを対象とするならば、疾患が治るか患者さんが亡くなればそこで終結かもしれません。しかし、私はこれからの医療は疾患を生む社会環境の改善や、患者さんや家族の心のケアなどにも、もっと積極的に踏み込むべきだと考えています。そして、それを実現するのも総合診療専門医の役割だと思っています。

今の職場の魅力

診療だけで終わらず、地域に出向いていけることが魅力です。一人暮らしの高齢者が社会的孤立に陥っていないか、社会的支援が不足していないかといったことを調べて歩くこともあります。
複雑困難なケースに出会い視野狭窄の状態に陥ったときに、先輩医師に客観的にアドバイスしてもらえるのは、グループ診療のよいところだと思っています。

総合診療専門医としての今後のビジョン

ゆくゆくは出身地の岩手県野田村で働きたいと考えています。野田村は診療所が1つと医療資源に乏しく、患者さんと医師が気軽に話せるような環境にはない地域です。私はそこで総合診療専門医として患者さんと医師の距離を縮め、何でも話せる関係を作り、周辺地域の医療機関との連携を密にして、患者さんの希望に沿った医療や暮らしを選択できるようにしたいのです。

中村医師の勤務スケジュール

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岡本麻衣岡本麻衣

背景の複雑な患者さんへの対応にこそ大きなやりがい

子育てと総合診療は
つながっている

岡本麻衣医師

都留市立病院(山梨県)

【略歴】

2017年 自治医科大学 卒業
2019年 山口県立総合医療センターで総合診療専門研修スタート
2022年 総合診療専門医 資格取得
都留市立病院 勤務
急性期から回復期、在宅医療まで担う地域密着型の病院
(病床数137床、うち地域包括ケア病床10床)

総合診療医の道を選んだ理由

子供の頃にかかった医師に「何でも診て治してくれるお医者さん」というイメージを持っており、憧れていました。自分も「専門じゃないから診られない」という医師ではなく、何でも診られる医師になりたい。そう思ったときに、最も近いと感じたのが総合診療専門医でした。

総合診療専門医ならではのやりがい

総合診療専門医は、一般外来、救急、訪問診療などいろいろなシチュエーションで患者さんとの出会いがあります。また同じ患者さんを長期にわたって診療することが多いので、自然に患者さんや、その家族との関わりが、より一層深まります。
患者さんの中には、アルコール依存症で独居、介護サービスが使えない、知的障害があるのにサポートがないなど、背景が複雑な方もたくさんおられます。こうした患者さんの思いや背景も考慮に入れた診療について深く学べ、経験できるのが総合診療専門医です。
総合診療専門医は背景の複雑な患者さんを診る際にもやりがいを感じることができると思っています。そして、個々の患者さんに合った良い対処方法を見出せたときは大きな満足感があります。

総合診療の強み

いくつもの病気を抱える高齢の入院患者さんを一つの科で診療することで、患者さんの負担を加味しながら治療・マネジメントしやすいと感じています。EBMや患者中心の医療などを意識しながら診療できるのも総合診療医の強みだと思います。また自分自身が訪問診療を経験しているので、退院後の患者さんの生活までイメージした診療をしやすく、入院中のリハビリや退院調整の際にもその経験を活かしやすいと感じています。退院時に他病院や他の訪問診療医に引き継ぐ際も、訪問診療の視点で情報共有ができるので、退院後のケアにうまく移行できます。

仕事と子育ての両立について

2歳の子供がいて仕事との両立は大変な部分もあります。しかし子育てを経験していることで、育児・仕事を両立しながら通院している子育て世代だけではなく、自分の親世代が祖父母になるという変化も目にしているので、「孫が生まれた」と報告してくれる患者さんの背景・生活の変化もより一層イメージしやすくなりました。
ライフサイクルの変化による悩みはつきものですが、今後自分自身のライフサイクルが変化していくことで、よりイメージできる部分が増えてくるのではないかと思うと、子育てと総合診療はつながっている部分が大きいと感じています。

総合診療専門医としての今後のビジョン

総合診療専門医の強みは患者さんを継続して診られることです。今後もその強みを最大限に生かした診療を行っていきたいです。いつも患者さんの近くにいて、その家族も含めて長く付き合えて、なんでも気さくに相談してもらえるような、そんな総合診療専門医になりたいと思っています。

岡本医師の勤務スケジュール

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「総合診療専門医」はどこにいる?

       

2024年4月1日現在
2021年度認定者:74名/2022年度認定者:233名/2023年度認定者:351名

*総合診療専門医の所属に関しては、最新の情報を掲載するよう努めていますが、異動もありますので、受診の際は事前に所属施設にご確認ください。